整形(2)

生まれ変わった私は。 

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 も く じ

 

 

1 過去の女性ら

大学4年の就活時代、ほんの一瞬仲良くして貰ったエステのお姉さんがいた。

店の形態もあるだろうが(むしろそれがメイン)、ご飯を共に行ってラインを交換するくらいの友達的距離感。陽キャ属性に見える彼女であるが、たどたどしいオタク口調の僕に対して非常に明るい言葉だけをくれる今まで関わったのことのないタイプの人であった。なぜここまで優してくれるのか、一挙一動、本当に真意が見えない人だった。僕はただの顧客なのに。しかし心地が良いので関わっていた。

「私実はね、ちょっと整形してるんだ」

彼女が告白をしてくれたことを覚えている。その時は、少しもの哀しい気持ちになった。僕が同情する訳でもなく、彼女が勧める訳でもなく、ただ事実だけを楽しく会話していたのだ。それに至った葛藤も覚悟も、会話のニュアンスには含まれていない。

 

卒業制作で、整形アニメーションを作ってしまっていたので、術方法は念入りに調べたおかげで知識があった。興味はあるものの、単純に万単位の金額を出すほど自分の顔面に対して激しいコンプレックスは抱えていない。まだ化粧で努力するレベル。

ただ、今社会人になり想像以上にお金がたまるので、今まで我慢していた何かに使いたいという願望は非常に強くなり、単純に敷居が下がる。

前回

初めてなこともあり非常にファンシーな感性が働いてしまったのだが、二度と用がないと思っていた美容整形外科にまた足を踏み入れることになったので、割と冷静になってこの施設を観察する。

 

 

2 存外自分の意思が弱い

ハマることはないだろうと思ったが、経過の感想としては、メイクで努力していた時間が不要になった感動が大きい。素が良くなったので満足度が既に高い。

気軽な涙袋からいじるか、ということで一度経験した訳だけどもお直し相談ということで2回目の整形になったのだが、全く意識してない所から

「二重モニターって興味ない?」

と言われ、目元の形的に向いているという妙に説得力のある言葉に身を投じて見たくなり、直感的に信じたかったというかこの人に変えて貰いたいとなんとなく思った。

笑気麻酔をしながら意識が朦朧とし、割と流されるがまま生きちゃってるな、、、と自分の意志が強いんだか弱いんだか分からなくなった。怖さを感じていても仕方がないのでもう諦めるしかない。ひたすらこの時を我慢するしかない。今後の幸せの為に。任せておけばきっと良くなる、だってプロだもん。プロを前にして自我を出したって無駄だから。プロ、大好き。

 

 

3 もっと敷居を落とした方が良いのは期待値が高すぎたからか

皆、狼煙を上げろ!小賢しい努力は要らぬ!

己の顔面に不満を抱く時間があるなら、さっさと整形しろ!

 

「うん、可愛い。」

針を刺す前に、先生がまっすぐ僕の目をみて言った。二重の形を調整しながら妙な安心感を感じる。僕に対して母性的にかわいい、だなんて面と向かって言われたのが結構心にきた。この言葉、相当欲しかったんだと後々気づいた。




可愛い私は絶対正義。

これが成り立った上で初めて、自身がスタートラインにたち、人間として堂々と自信を持って振舞うことができる。完成した「わたし」になる。

「可愛くないわたし」はそもそも人間じゃないから。可愛い女の子に劣等感を抱えながら生きてるの。ブサイクな私となんかと関わってくれてありがとうっていつも思っているの。

 

整形をすることはヤバいこと、いけないこと、親が悲しむ、宗教観、痛み、憧れ、色んな感情が重なる訳だと思いますが、敷居を跨いだ先には跨いだ勇気を超えた理解者が待ってる。変わろうしている人の邪魔は誰もしない。

拗らせているのは自分だけではないのだと、通過点で気づかされる。

やりたいならやればいい。ただそれだけなのだと、、、、、、

 

 

4 現場の誠実な人らの意

善意、悪意。それすらも判断するのは己の都合による。

勝手に幸せになっていれば良いのだ、と。

 

美魔女の様な先生を前にし、僕はその作り上げられた顔面と出で立ちに奮い立ち、経過を想像した。それが、醜悪にみえたとしても、アンドロイドの様に整いすぎていたとしても、「努力した人」の前ではひれ伏してしまう。

人造的な顔は美しいのか。

 

この世界では、「美」の王政が成り立っていて下民の僕らはそれについて行くだけだった。その思想にリアルの横の繋がりが干渉する必要がなかった。目標だ。最初から時間で繋がっている。横の繋がりは邪魔であった。感情の横這いにすぎぬ。僕の目的が阻害される。縦と繋がれ。その先には不安がなくなっている。